う~ん、黒
装束姿で立っている時間の方が長かったか、あんちゃん。
しかし、屯田兵とどちらがカッコいいのか、だんだんわからなくなってきたお召し物もこれで見納め・・・などという感傷に浸る余韻を与えない総帥の必殺剣は―――ごめん、先に謝っておく―――もっと恥ずかしいよ!
なんとかしてほしいよ、毎回!
ナニがスゴいのか、もうわからん!
落ち着け、自分。
視覚的には珍プレーでも意味するところは重大で、《風魔反乱》で表面化した一族の葛藤に終止符を打った闘いを、それでは追ってみましょう。
《七星連斬》によって、霊的中枢のひとつ「風の氣(風脈)」を断たれた小次郎。
それで、どうやってとどめを刺そうとするのかと思ったら―――。
マ。
マン―――。
駄目だ。云えない。
その素っ頓狂なルビは、なんなんだよう。
・・・よし。「Mドライブ」だ。これでいこう。
いや、表現したいことはわかるんですよ。
ある意図のもとに宇宙を構造化した曼荼羅を使って高次元からエネルギーを引き出し、それを御(ドライブ)する・・・程度のことは。
魔剣《七星刃》には「咒」によって北斗七星が勧請されているので、あの曼荼羅はつまり、これです。
京都国立博物館【
Kyoto National Museum】サイトに掲載されている「星曼荼羅
(※01)」を図式化しました。
※01:大阪府岸和田市の久米田寺所蔵。
内院は、最勝至尊の仏頂中最高である「一字金輪」を中心に、北斗七星と九曜(太陽、月、火星、水星、木星、金星、土星、計都星、羅喉星)。
第二院は、黄道十二宮。
第三院は、二十八宿。
これ、作っている途中で、あらら由利先生、金牛宮と巨蟹宮の位置が逆では? と思ったのですが、技をかけ間違えたのかな?
それで「小次郎、きさま・・・まだ息があるとは・・・」なら恥ずかしいぞ、あんちゃん
(※02)。
※02:由利先生がわざと違えた、という可能性はあります。「咒」が怖ろしいのは、仕掛けた者の意図にかかわりなく正しい手順を行えばそれは効く、というところです。おかしなエネルギーを『暗殺帖』へ引き込まないように、という配慮かも。
以前、日本史の調査でこの「星曼荼羅」を所蔵する久米田寺を観光したことがあり、撮影した写真を出してみたら「境内案内図」に「二月節分 星祭大護摩供法要」と書かれていました。
あー・・・。
そうなんだ。
小次郎と総帥の闘いは「一陽来復(地雷復)」だったのです。
第10話で、『暗殺帖』には易がかかわっているような気がして太極図を作成したのですが、今度は「消息の卦」をあてはめてみます。
※03:『古事記の暗号-神話が語る科学の夜明け-』(藤村由佳/新潮社)を参照。「天風逅」の逅は「姤」ですが、字義は「遇う」で同じです。
小次郎の「とっておき」は、その名も《
天風剣》。
総帥は「八風」の集まる先を見て、
「そういう事だったのか」
と悟ります。
《五輪の宝剣》は「失われた」のではなかった。自らを護るために形を変えていた。
そして、なにを為すべきなのかを心得た総帥の、
「全力をもって打つがよい!!」
という導きに従って放たれた《天風・颱牙絶唱》⇔《七星刃》の交差によって次元(結界)を突破し、物質化したのです。
対立なければ運動なし。
ちょっと、下を読んでみてください。
- 『繋辞伝.繋辞上伝』
- 「是故形而上者謂之道、形而下者謂之器、化而裁之謂之変、推而行之謂之通、挙而錯之天下之民謂之事業。」
- (対訳)
- 「眼に見えぬ実在(形而上)が「道」、それが形となって表れた現象(形而下)が「器」である。
現象が相互に作用してさまざまに変化することが「変」であり、変化することによって新たに発展することが「通」である。
そして、この「通」の理によって民を導くこと、これが「事業」である。」
第9話で小次郎が項羽に示した「忍道(道理)」を、彼自身ははっきりと感得していたけれども、《風林火山》を失い、手負いの身では「道」を説く
術もなかった。
つらかった、と思います。
今、子午線で結ばれた太陽⇔太陰が激突した結果、再び形を表した護剣と小次郎が遇った―――
道から
器が成った―――というわけですね。
あとは
変を為して
通し、
事業を遂げる。それだけです。
おめでとう、小次郎。
そして、ありがとう、あんちゃん。
風脈を極めた一族の総帥、「最強の風魔」にふさわしい奥義(ネーミングセンスはともかく)であり、決断でした。どんな作用で小次郎がぶッ飛んでいたのか、さっぱりわかりませんが(腰が砕けて、力が入らなかったのかもしれません。「やめろよ、あんちゃん! 俺が恥ずかしいよ!」)。
でも「天風姤」の卦に変なことが書いてありましたよ。「女王蜂のような女」「一人の女が五人の男を相手にしている形」。なんだ? これ。
これで、ちょうど12話。
そういえば、《天魔の聖櫃》は日没までの12時間で生け贄の血を搾りとるんだっけ。
いろいろオカルトなアイテムが飛び交っている『暗殺帖』ですが、この話、八卦に沿って進んでいる・・・ということはないのかな?
ずばり、「
地天泰」(2006年03~05月号(第15~16話))あたりで、独眼竜・竜魔にお出まし願えないかな。
・・・来年かい。
出てこないうちに、何人もいなくなっちゃったじゃないか。
人物相関図の霧風「×」にはがっくりきました。
あれでおしまい?
幼年時代の描写から、霧風は小次郎の言動にかなり寛大であることがうかがえたので―――残念です。
対項羽戦もいまだに引きずっていて、第10話の感想の冒頭で滲み出てしまったのですが、項羽が「同じ死を二度死んだ」ことに無念を感じます。
今回、転生した五人が本気で小次郎の選択を「目的を阻むもの」とし、かつ彼を「戦力外」と見なしていたことがわかったので、期待していた「大義のウラの真意」はありませんでした。
がく。
総帥の見た大局は、
- 地上の脅威である帝を封じた五部族のひとつ、「風魔」の宿命(役目)を全うする
- 忍としての風魔一族の大義を為す=「主家たる北条様」を救う(※04)
で、霧風、項羽の言葉をまとめたものですが、実はこれらと小次郎の行動はまったく矛盾していません。
ただ、彼らは小次郎を信じなかった。
五人は彼らだけで大局を見切ろうとし、他の四部族の動向は計算に入れ(られ)ずに「できること」を為そうとしました。
「華悪崇の乱」で過去を絶たれた一族の悲劇です。
これを「大局」としてよいのか。
真の大局に、誰が思いを致していたのか。
「八色の
護風」は、彼らに吹かなかった・・・。
※04:あえて言及すると「転生組」が小次郎よりも北条姫子を大事に考えている、とは思えません。彼女と小桃の交換を条件にした「偽りの契約=風魔再興」は人質を利用して成立しているからです。しかも互いを信用していない。鬼悶島へ小桃を呼び寄せることに成功したとして、「仮初めの肉体」で帝を封じ、姫子を救える確率は高くない。その時のために小次郎へ姫子を託す余地を残そうとしなかったのは総司の云う「焦り」でしょう。「北条の血統」も「大局」に及かず。小次郎が「転生組」の大義を受け入れなかったのは当然です。
つくづく感じたのが、やはり小次郎は「忍」ではなく「剣士」なのだ、ということ。
結界の奥に更衣室があったとしか思えないお召し替えでしたが、武装を新調し、小桃を人柱にしなくてもすむ「力」を手に入れたのに、浮かない顔をしているのが気になります。
年配のオジサンの場を読めない冗談に心が寒くなりつつも「礼を失してはならぬ」と相槌を打ち疲れて、不機嫌になってしまったかのような・・・。
あんちゃんのコスプレと「Mドライブ」のせいか!
虎次郎は「総司さん」に落ち着いたようで。
風獄門の前で小次郎を待つ彼の苛立ちがかわいい。その頃、小次郎あんちゃんは大変なことになっていたのですが、小次郎が決して彼や小桃を見捨てないことを日常生活において学習していたのでしょう。
さて、「小桃=最後の手段」ではなくなってしまったわけですが、それを知らずに空獄門へ急ぐ劉鵬(仮)が羯磨衆と接触しそうです。
もしかして、小次郎と再会することなくやられてしまうのでしょうか。
『淮南子』(『淮南字』とは? 誤植かな?)の「八風」ですが、今後、小次郎の必殺技が八つ飛び出すかもしれないので、考察は次回以降へ持ち越し。
最初に「《風魔反乱》で表面化した一族の葛藤に終止符を打った」と書きました。
「人知れず、風のようにさすらい、風のように生きてきた」という在りようにこだわるからです。
風魔を最強足らしめた「力」とはなにか。
それは《風魔羅将紋》のごとく―――時として、死紋のような存在と共鳴してしまう物理的な力でしかないのか。
違うはず。
「ミソっかすで
不器用」を自覚していた小次郎は、それゆえに誰よりも懸命に風魔一族であろうと努力し、その精神を継承する戦士となったのです。
OVA『風魔反乱篇』のオープニングテーマは、まさに『風の
戦士』(作詞:車田正美)。
第12話につけられた同じタイトルが、真の「新生風魔」の誕生を祝福しているように感じられます。
これにて『風魔反乱篇』、完結。