『柳生暗殺帖』第13話 -優しき豪腕-(2005年11月号)

空獄門で劉鵬を出迎えたのは、四剣王・持国天ドリタラーシュトラ頑摩ガンマ
第一印象、なんか雑魚っぽい。
第二印象(読後)、なんだかウソっぽい。
第三印象(再読後)、とってもニセモノっぽい。

今までに登場した是音、吹雪、無名の面々と比べて、雰囲気というか迫力というか・・・見劣りがするのは気のせいでしょうか?
第一、「インドラから賜りし、四剣王、四つの武具がひとつ」とか、得意げに抜いているその得物はなんなんだ?
『リングにかけろ』で高嶺竜児と闘った、宝輪門の番人・凄牙のような役どころを期待していたのですが・・・もう・・・次回で小次郎にキッツいお仕置きをされそうな予感。

『五行大義』(※01)によれば、
経に云ふ、
(多聞天)天 は一を生じ、北方の水に始まる。
(増長天)地 は二を生じ、南方の火に始まる。
(持国天)人 は三を生じ、東方の木に始まる。
(広目天)時 は四を生じ、西方の金に始まる。
(帝釈天)五行は五を生じ、中央の土に始まる。
というわけで彼の名の由来がわかります。
ギリシア語の(基)数詞:γ’(Gamma)=3(※02)
※01:『陰陽師6-貴人-』(原作:夢枕獏/漫画:岡野玲子/スコラ)を参照。
※02:『ギリシア語入門 改訂版』(田中美知太郎・松平千秋/岩波全書)を参照。

《天空飛翔・ハゴウケン》などと叫んでいるので、背後の鳥は『リグ・ヴェーダ』の神獣・ガルダだと思います。
ハゴウケン。
なんでカタカナかな。
この技が漢字で炸裂した時に頑摩の正体がわかる・・・ような気もします。



風魔の兄弟の対立を総括したような内容でした。
対立の軸である「風魔一族のため」とは、「なにかを全うすることで得られる、風魔一族の幸福」を考えることでした。
転生した五人はそれを、 とし、小次郎は、 とした。
両者は、幸福とは必ずしも長生きをしたり、なるべく心身の苦痛を味わわずに過ごすことではない、という点で一致していたわけです。
柳良は、幸福とは本来「真の希望を叶えるために全力を尽くすことである」と考えたいから、どうしても小次郎の言動に共鳴してしまう。

一方、五人の側にも大義に対する温度差があって、あんちゃんは総帥だからしゃんとしなければならないのですが、 で、ちょっと疲れていたところへ、やっと劉鵬の心情を酌みとることができたのでほっとしています。
大義を「理不尽」と知る己を避けない気力。
選択した意志を示す体力・・・と腕力(あの世でも修行ができる、とはなかなかいい設定です)。
彼らしい。
もし小次郎が劉鵬と闘っていたら、力や技の優劣は関係なく、もっとも悲しい戦闘になったのではないでしょうか。
二人の以心伝心は健在だったなあ。
転生した兄弟が何人で誰なのか、明らかにされていなかったはずなのですが、小次郎は劉鵬がよみがえったことを感じとり、そして会うつもりでいた。
その後、どうなったとしても。
泣ける。
※03:霧風ですが、彼は「小次郎と再会するまで、あえて態度を保留にしていた」ような気がしてきました。第6話の対決で「なんだか試験っぽいなあ・・・」と感じたのですが、逢って、小次郎の成長を確かめてから「護風」の代わりに里を護る決心をしたのなら嬉しいことです。

その劉鵬、頑摩に面と向かって「真意」をぶちまけてしまいました。
本当に敵だとしたら、口封じのために彼を抹殺するしかありません。



闘いの舞台となったのは空獄門。
ああ・・・おお・・・五行、九星、十干(日次)、十二支(月次)に易の八卦か。
時のモデルだね。ここは空の里だから。
時間と空間が切っても切り離せないのは、○○駅から徒歩で○分、というように空間の移動には必ず時間の感覚がともなうからです。
そのまんまですが、あの魔方陣に色をつけてみました。
太陰太陽暦
興味深いのは、「艮」から進入した小次郎伊達総司虎次郎が陽の属性だということです。
八卦の「地沢臨~地天泰」は陰⇒陽へ転ずる位相で、ここに集まる陰の気は虎に食われる、という話もあります。
この大事な方位を守るため、平安京の大内裏の東北(鬼門)には「桃園」があったとか。
小桃という名の少女が「風の神子」であるのも、おもしろいですね。

柳良は虚空楼の廃墟を見て、なんの脈略もなく中南米大陸に点在するマヤ・インカ文明の遺跡に通ずる印象を持ちました。
そのてっぺんに、とってつけたように鳥居が立っているから失笑しました。
小次郎、白霊山のことを思い出さなかったのかなあ。
総司がついてきてくれて、よかったね。
調べたら、あそこはペルー(南米大陸)にあるインカ帝国の遺跡、空中都市「マチュピチュ」(古い峰、年老いた鳥の意、とか)でした。
いいなあ。旅費なしだよ。
「風魔の小次郎」ご一行様、世界遺産の旅へいらっしゃ~い。

マヤ人は「羽毛の蛇・ククルカン」と密接な関係にあるマヤ暦(ツォルキン)を運用し、それは、 の太陽暦だったそうです(※04)。インカ暦も太陽暦です。
そんなところへいきなり太陰太陽暦の魔方陣を持ち込む車田先生(か、由利先生)の感性がすごすぎて、いまだに「Mドライブ」をくらっている気分です。
※04:『2013:人類が神を見る日』(半田広宣/徳間書店)を参照。このカレンダー、易の八卦に似ていておもしろいですよ。

きっと行くよ、この人達。エジプトへ。
そして、呪いだとか秤だとか、大騒ぎをするんだ。とほほ。



日本でも、気象条件によっては北アルプスの槍ヶ岳や立山連峰、剱岳で「ブロッケン現象」を見ることができます。
ところで小次郎、君は『荒野の七人』を観たのかい?
ふ、男の憧れだね。
ごめん、柳良はユル・ブリンナーの方が好きだ。
2005年09月23日

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